モデル圏から∞-圏を作るとき、よく「弱同値を反転する」と説明されます。これは大筋では正しいのですが、そのまま普通の圏の局所化 C[W1]\mathcal{C}[W^{-1}] を考えると、高次のホモトピー情報は失われます。普通の局所化で得られるのはホモトピー圏であり、二つの対象 X,YX,Y の間にある射は、写像空間そのものではなく、その連結成分だけを見たものになるからです。

たとえば位相空間のモデル圏では、XX から YY への写像を単なる集合ではなく、写像空間 Map(X,Y)\operatorname{Map}(X,Y) として扱います。さらに、弱同値を反転したあとには、必要に応じて cofibrant replacement や fibrant replacement を入れたうえで、その写像空間のホモトピー型を考えます。ホモトピー圏 Ho(C)\operatorname{Ho}(\mathcal{C})π0\pi_0 だけを残すので、そこから上のホモトピー群を復元することはできません。

Dwyer-Kan の単体的局所化は、この写像空間の情報を保ったまま弱同値を反転するための構成です。圏 C\mathcal{C} と弱同値の部分圏 WW が与えられたとき、単体的局所化 L(C,W)L(\mathcal{C},W) は、対象は C\mathcal{C} と同じまま、各 MapL(C,W)(X,Y)\operatorname{Map}_{L(\mathcal{C},W)}(X,Y) を単体的集合として持つ単体的圏になります。ここで π0\pi_0 を取れば普通の局所化 C[W1]\mathcal{C}[W^{-1}] の射集合に戻りますが、単体的集合そのものには、射の間のホモトピーやその高次の整合性が残っています。この意味では、ホモトピー圏の少し手前で止めておく構成だと見てもよいですね。

ただ、標準的な単体的局所化は定義としては自然でも、実際に写像空間のホモトピー型を読むには扱いにくいところがあります。そこで Dwyer-Kan は、同じ情報をより計算しやすく表すモデルとしてハンモック局所化 LH(C,W)L^H(\mathcal{C},W) を導入しました。XX から YY への射は、単に

XYX \longrightarrow \cdots \longleftarrow \cdots \longrightarrow Y

のような一本のジグザグではなく、弱同値を縦方向に並べた格子状の図式として表されます。例えば、模式的には次のような形です。

XA1A2YXB1B2Y\begin{array}{ccccccc} X & \longleftarrow & A_1 & \longrightarrow & A_2 & \longleftarrow & Y \\ \downarrow^{\sim} & & \downarrow^{\sim} & & \downarrow^{\sim} & & \downarrow^{\sim} \\ X' & \longleftarrow & B_1 & \longrightarrow & B_2 & \longleftarrow & Y' \end{array}

縦方向の矢印は弱同値で、横方向にはジグザグが並んでいます。このような図式が hammock と呼ばれます。重要なのは、弱同値を形式的に逆向きの矢印として入れるだけでなく、異なるジグザグ同士の間にある比較も単体的集合の高次単体として記録する点です。

この構成を使うと、モデル圏の写像空間を具体的に扱えます。適当な仮定のもとで、LH(C,W)(X,Y)L^H(\mathcal{C},W)(X,Y) は、XX を cofibrant に、YY を fibrant に置き換えてから作る通常の homotopy function complex と同じホモトピー型を持ちます。つまりハンモック局所化は、弱同値を反転したあとに残る写像空間を、置換の選び方に依存しない形で記述しています。

この点で、ハンモック局所化は Bousfield 局所化とは別物です。Bousfield 局所化は、指定した射を弱同値に加えて、新しいモデル構造を作る操作です。一方、ハンモック局所化は、与えられた相対圏 (C,W)(\mathcal{C},W) から単体的圏 LH(C,W)L^H(\mathcal{C},W) を構成する操作であり、弱同値のクラス自体を変更しません。どちらも「局所化」と呼ばれますが、前者はモデル構造の変更であり、後者は相対圏を単体的圏として表示するための構成です。

擬圏との関係は次のように説明できます。モデル圏 M\mathcal{M} と弱同値 WW から LH(M,W)L^H(\mathcal{M},W) を作ると、これは単体的圏になります。そこに homotopy coherent nerve を取れば、対応する擬圏が得られます。したがって「モデル圏から擬圏へ移る」と言うときには、歴史的に擬圏という言語へ移ったという意味だけでなく、具体的にはハンモック局所化で単体的圏を作り、その nerve を取る、という技術的な意味でも読むことができます。

要するに、ハンモック局所化は、弱同値を反転するという操作を、射集合ではなく写像空間のレベルで行うための構成です。普通の局所化では射集合だけを見るのに対して、ハンモック局所化では写像空間を単体的集合として記述します。∞-圏の言葉でモデル圏を読むためには、この差が本質的です。